新しい製品やサービスを開発したい、これまでとは異なる市場へ進出したい、海外への輸出を本格化したい。こうした中小企業等の挑戦を後押しする制度が、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。
この記事では、公募要領(第1回・1.1版)をもとに、制度の目的、補助金を使える経費、3つの補助対象事業枠、申請時に押さえておきたい基本要件をわかりやすく整理します。
今回は制度の全体像と基本要件までを扱います。対象事業者、対象外事業、申請方法、審査、必要書類などは後編で解説する予定です。
1.この補助金は、何を目的とした制度?

この補助金の目的は、中小企業等による次のような取り組みを支援することです。
- 技術的な革新性のある新製品・新サービスの開発
- 既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出
- 海外市場の開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制強化
設備を購入すること自体が目的ではありません。新たな製品・サービスや市場を生み出し、企業規模の拡大、付加価値の向上、生産性向上を実現し、最終的に賃上げへつなげることが制度の狙いです。
2.何に使える?補助対象となる主な経費

対象になるのは、補助事業のために必要であることが明確で、必要性と金額の妥当性を証拠書類で確認できる経費です。主な区分は次のとおりです。
- 機械装置・システム構築費:専用の機械、工具、測定・検査器具、専用ソフトウェア、情報システムなどの購入・製作・借用
- 建物費:補助事業専用の生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、作業場などの建設・改修(新事業進出枠・グローバル枠のみ)
- 運搬費:運搬料、宅配・郵送料など
- 技術導入費:事業に必要な知的財産権等の導入
- 知的財産権等関連経費:開発成果の特許等を取得するための弁理士費用、外国出願の翻訳料など
- 外注費:必要な検査、加工、設計などの一部を外部へ委託する費用
- 専門家経費:技術指導や助言を受けるための専門家への謝金・旅費など
- クラウドサービス利用費:補助事業専用のクラウドサービスやWebプラットフォームの利用料
- 原材料費:試作品の開発に必要な原材料・副資材
- 広告宣伝・販売促進費:新たに製造・提供する製品やサービスのパンフレット、動画、写真、Webサイト、展示会、プロモーションなど
- 海外旅費、通訳・翻訳費:海外市場開拓に必要な渡航・宿泊、通訳・翻訳(グローバル枠のみ)
革新的新製品・サービス枠では「機械装置・システム構築費」が必須です。新事業進出枠とグローバル枠では、「機械装置・システム構築費」または「建物費」のいずれかを含める必要があります。一過性の支出が経費の大半を占める計画は支援対象になりません。
「買えば何でも対象」ではありません
たとえば、事務用パソコン、プリンター、タブレット、スマートフォン、家具・家電など、ほかの用途にも使える汎用品は原則として対象外です。既存設備の単なる置き換え、建物の購入・賃貸、一般的な家賃や光熱費、自社人件費なども対象になりません。
また、採択されたからといって、申請時に計上した経費がすべて認められるわけではありません。最終的には交付審査や実績報告で確認されます。
3.補助対象事業枠は3種類。それぞれの条件は?

(1)革新的新製品・サービス枠
革新的な新製品・新サービスの開発を支援する枠です。顧客に新たな価値を提供するため、自社の技術力等を活かして開発する取り組みが対象になります。
単に機械やシステムを導入するだけの事業、既存製品・サービスの生産工程を改善するだけの事業、同業他社ですでに相当程度普及している製品・サービスの開発は対象になりません。
| 補助下限額 | 100万円 |
|---|---|
| 補助上限額 | 従業員1~5人:750万円(850万円) 6~20人:1,000万円(1,250万円) 21~50人:1,500万円(2,500万円) 51人以上:2,500万円(3,500万円) |
| 補助率 | 中小企業者:1/2(2/3) 小規模企業・小規模事業者、再生事業者:2/3 |
| 実施期間 | 交付決定日から10か月以内(ただし採択発表日から12か月以内) |
(2)新事業進出枠
既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。次の両方を満たすことが必要です。
- 新たに製造・提供する製品、商品またはサービスが、自社にとって新規性を持つこと
- その製品等が属する市場が、自社にとって新たな市場であること
ここでいう新規性は「日本初」「世界初」という意味ではなく、申請する事業者にとって新しいかどうかで判断されます。一方、既存製品の製造量を増やすだけ、過去の製品を再び作るだけ、製造方法だけを変更する場合、既存市場の一部や別の商圏へ広げるだけの場合などは対象外です。
| 補助下限額 | 750万円 |
|---|---|
| 補助上限額 | 従業員1~20人:2,500万円(3,000万円) 21~50人:4,000万円(5,000万円) 51~100人:5,500万円(7,000万円) 101人以上:7,000万円(9,000万円) |
| 補助率 | 1/2(2/3) |
| 実施期間 | 交付決定日から14か月以内(ただし採択発表日から16か月以内) |
(3)グローバル枠
海外市場開拓(輸出)に向けた国内の輸出体制強化を支援する枠です。次の両方を満たす取り組みが対象になります。
- 自社製品等を活用し、自発的に新たな海外販路を開拓するため、国内の製造・提供拠点を強化すること
- 製品等が属する市場が、自社にとって新たな海外市場であること
取引先に求められて行うだけの事業は、自発的な取り組みとは認められず対象外です。「新たな海外市場」とは、自社が既存事業で対象としていなかった国・地域の市場を指します。
| 補助下限額 | 750万円 |
|---|---|
| 補助上限額 | 従業員1~20人:2,500万円(3,000万円) 21~50人:4,000万円(5,000万円) 51~100人:5,500万円(7,000万円) 101人以上:7,000万円(9,000万円) |
| 補助率 | 2/3 |
| 実施期間 | 交付決定日から14か月以内(ただし採択発表日から16か月以内) |
※表中の括弧内は、賃上げ特例による上限額の引き上げ、または地域別最低賃金引上げ特例による補助率の引き上げが適用される場合の数値です。適用条件は枠や事業者区分によって異なります。
4.申請前に確認したい6つの基本要件

申請者は、次の要件を満たす3~5年の事業計画に取り組む必要があります。
(1)付加価値額要件
事業計画期間において、付加価値額の年平均成長率を4.0%以上増加させる見込みの計画を策定します。付加価値額は、営業利益・人件費・減価償却費の合計です。
(2)賃上げ要件
一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、3.5%以上増加させる目標を設定します。目標は交付申請時までに、全従業員または従業員代表者へ表明する必要があります。
目標を従業員等へ表明していなかった場合は交付決定が取り消され、補助金全額の返還を求められます。また、計画最終年度に目標を達成できなかった場合も、原則として未達成率に応じた返還が必要です。
(3)事業場内最賃水準要件
事業計画期間中の毎年、補助事業を実施する事業場の最低賃金を、所在都道府県の地域別最低賃金より30円以上高い水準にする必要があります。未達の年度がある場合は、原則として補助金の一部返還が必要です。
(4)ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を策定・公表する必要があります。応募申請時までに、「両立支援のひろば」で申請締切日時点に有効な計画を公表しておくことが必要です。掲載には1~2週間程度かかるため、早めの準備が必要です。
(5)子育て等に関する職場環境整備の取り組み要件
次の3つから1つを選び、一般事業主行動計画にとどまらない追加的な取り組みとして実施します。
- 若手従業員が利用できるライフデザインサービスを活用する
- 家事代行サービスまたはベビーシッターサービスを活用して、社員の育児等を支援する
- 育児休業、短時間勤務、フレックスタイムなど、子育て等に関する既存制度を従業員へ周知・普及・啓発する
なお、「プラチナくるみん」「くるみん」「トライくるみん」のいずれかの認定を取得している事業者は、この要件が免除されます。
(6)金融機関要件
補助事業の実施にあたり金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元に事業計画を確認してもらい、「金融機関による確認書」を提出する必要があります。自己資金だけで実施する場合は提出不要です。
まとめ:設備購入だけでなく、成長と賃上げまで見据えた計画が必要
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、新製品・新サービスの開発、新市場への進出、海外輸出に向けた国内体制強化を支援する制度です。機械やシステム、建物の改修、試作材料、知的財産、広告宣伝など幅広い経費が対象になり得ます。
一方で、設備を買うだけでは対象にならず、付加価値向上や賃上げ、職場環境整備まで含む3~5年の事業計画が必要です。特に賃上げと事業場内最低賃金の要件には返還義務があるため、実現可能性を慎重に検討しましょう。
後編では、補助対象者・対象外事業、申請手続き、審査項目、必要書類などを取り上げる予定です。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公募要領(第1回)1.1版(令和8年7月)」
※本記事は公募要領の内容をわかりやすく整理したものです。申請時は必ず事務局ホームページで最新の公募要領・交付規程等をご確認ください。





