「行政書士って食えますか?」

行政書士をやっていると、よく出てくる話です。

SNSでも定期的に「行政書士は食える」「いや食えない」という話が出てきますが、個人的には、この議論はそもそもいくつかの違う話が混ざっているように感じています。

まず、「食える」の意味が人によって違います。

さらに、「行政書士だけで食えるのか」という話と、「行政書士という資格を使って食えるのか」という話も違います。

そのあたりを分けずに話すので、いつも議論が噛み合わないのではないでしょうか。

今回は、自分自身が行政書士として独立して仕事をしてきた経験も踏まえながら、この「食える・食えない論争」を少し解像度高く考えてみたいと思います。

目次

  1. そもそも「食える」とはどのくらいなのか
  2. 「行政書士だけ」と「行政書士を使って」は別の話
  3. 一人で食べていくなら、行政書士だけでも十分可能だと思う
  4. 家族を養うレベルになると、かなり戦略が必要
  5. 行政書士の難しさは「仕事がない」ことではない
  6. 顧問型ではないからこそ、泥臭さが必要になる
  7. 行政書士業務にこだわらないという考え方
  8. 独立時に持っている「コネ・金・経験」の棚卸し
  9. 行政書士を極めつつ、行政書士だけにこだわらない

1.そもそも「食える」とはどのくらいなのか

まず、「食える」という言葉自体にいろんな階層があります。

例えば、

「一人暮らしをして、家賃、水道光熱費、食費などを払いながら生活していける」

という意味での「食える」。

一方で、

「家族4人を食べさせていけるだけの売上があり、それをコンスタントに稼げる」

という意味での「食える」。

これは、かなり違う話です。

仮に前者を年間300万円程度を稼ぐ段階、後者を年間600万円以上を安定して稼ぐ段階として考えてみます。

もちろん300万円、600万円という数字そのものに絶対的な意味があるわけではありません。

住んでいる地域も違えば、家賃も違いますし、配偶者の収入、住宅ローン、子どもの有無などによって必要な金額は大きく変わります。

ここで言いたいのは、

「食えるかどうか」

を考えるのであれば、まずどの程度の生活を想定しているのかを決めないと話が始まらない、ということです。


2.「行政書士だけ」と「行政書士を使って」は別の話

もう一つ、大きな軸があります。

それが、

「行政書士だけで食えるのか」

なのか、

「行政書士という資格を使って食えるのか」

という違いです。

この二つも結構違います。

例えば行政書士の王道業務として、

許認可申請、入管業務、相続、法人関係、補助金関係などがあります。

こうした行政書士業務そのものだけで売上を作るのが、「行政書士だけで食べる」という話。

一方で、行政書士という資格や専門性を入り口にして、

講師業務をしたり、法務顧問として入ったり、外国人雇用の支援をしたり、人材関係の仕事につながったりする。

そういうものまで含めれば、「行政書士資格を使って食べる」という話になります。

「行政書士は食えますか?」

と聞いている人の多くは、おそらく、

「行政書士業務だけで、自分や家族を養えるのか」

ということを聞きたいのではないかと思います。

ところが、それに対して、

「なんで行政書士にこだわる必要があるの?」

「資格にこだわらず、もっと柔軟にやればいい」

という回答が出てくる。

もちろん、その意見自体はその通りです。

ただ、質問者が知りたいこととは少し論点がずれているようにも感じます。


3.一人で食べていくなら、行政書士だけでも十分可能だと思う

では、

「一人で生活していく」

という水準で、行政書士業務だけで食べていけるのか。

これは個人的には十分可能だと思っています。

例えば月25万円。

許認可申請で考えれば、業務にもよりますが月に2~4件程度の受注でも届く金額です。

もちろん案件単価はさまざまですし、毎月同じように受注できるわけではありません。

ただ、特定の業務に強くこだわらず、人脈づくりをしながらいろいろな仕事を受けていけば、そこまで現実離れした数字ではないと思います。

行政書士をやっていると、本当にいろんな相談が来ます。

「これできますか?」

「今度はこれをお願いできますか?」

という形で、スポット的な仕事も入ってきます。

ですので、一人で生活する程度を想定するのであれば、ものすごい商才がなければ絶対無理、という仕事ではないと思っています。


4.家族を養うレベルになると、かなり戦略が必要

一方で、

「家族を養っていける」

という話になると、難易度は一気に上がります。

例えば年間600万円以上を継続して稼いでいく。

これは、何となく行政書士をやっているだけではなかなか届かない数字だと思います。

どの業務をやるのか。

誰を顧客にするのか。

どうやって集客するのか。

広告を使うのか。

紹介を増やすのか。

単価をどう設定するのか。

リピートしてもらえる仕事をどう作るのか。

こうしたことをかなり真剣に考える必要が出てきます。

逆に言えば、きちんと戦略を持って取り組めば、決して不可能な数字ではないとも思います。

ただ、

「資格を取って看板を出していれば、そのうち年間600万円、800万円になる」

という仕事ではないです。


5.行政書士の難しさは「仕事がない」ことではない

行政書士という仕事を何年かやってきて感じるのは、

「行政書士には仕事がない」

というより、

「行政書士の仕事は売上を平準化しにくい」

ということです。

ここは税理士や社労士とは少し構造が違うと思っています。

税理士や社労士の場合、顧問契約という形が比較的一般的です。

例えば顧問先が10社あって、1社あたり毎月3万円であれば、毎月30万円。

20社あれば60万円。

もちろん実際にはそんな単純な話ではないでしょうが、少なくとも、

「あと何社増やせばこのくらいの売上になる」

という目算は立てやすいと思います。

そのため、

「ここまで売上が増えたら事務所を借りよう」

「この水準になったら従業員を雇おう」

という経営判断もしやすい。

一方で行政書士の場合、

毎月同じ会社から同じ金額が入る仕事ばかりではありません。

今月は建設業許可。

来月は在留資格。

その次は補助金。

ある会社から、

「これお願いできますか?」

と言われて、その仕事が終わったら、またしばらく何もない。

こういうことが普通にあります。

仕事自体はある。

ただし、それを事務所経営として標準化、平準化するのが難しい。

ここが行政書士業の難しさの一つではないかと思います。


6.顧問型ではないからこそ、泥臭さが必要になる

そう考えると、

「行政書士だけで食べていく」

のであれば、ある程度の泥臭さは必要だと思います。

自分の中では、

漢字ノートにひたすら漢字を書く。

英語ノートにひたすら英単語を書く。

そんな感覚に近いです。

一件仕事をする。

また一件仕事をする。

そのお客様から紹介をもらう。

知らない業務が来たら調べる。

経験を積む。

また新しい人に会う。

そしてまた一件仕事をする。

ある意味では非常に労働集約的です。

この繰り返しをかなり頑固一徹に続ける必要があります。

逆に言えば、

「もっと仕組み化されたビジネスがしたい」

「短期間で自動的に売上が増えるような仕事をしたい」

という人には、少なくとも行政書士業務だけで独立するのは少ししんどいかもしれません。

それなら、別の仕事で独立するという選択もあるでしょうし、別の士業を目指すという考え方もあると思います。


7.行政書士業務にこだわらないという考え方

では、

「行政書士だけでやらなくてもいいのではないか」

という意見についてはどうか。

これは自分もその通りだと思います。

例えば、

講師業務をやっている行政書士。

法務顧問をやっている行政書士。

外国人雇用に関する周辺業務をやっている行政書士。

行政書士業務から派生した仕事で定期収入を作っている人もいます。

さらに言えば、行政書士とはまったく関係のない仕事を並行してやっている人もいるでしょう。

別に、どの形態でもいいと思います。

個人的には、

「行政書士の王道業務をやりながら、そこから派生する形で定期的な収入を作る」

という形が、かなり相性がいいのではないかと感じています。

スポット業務だけだと売上が読みにくい。

だからこそ、その周囲に毎月ある程度入ってくる仕事を作る。

これは事務所経営を安定させる意味ではかなり大きいと思います。


8.独立時に持っている「コネ・金・経験」の棚卸し

もう一つ、「行政書士で食えるか」を考えるうえで大きいのが、

コネ・金・経験

だと思っています。

ビジネスなので、これは行政書士に限った話ではありません。

コネがある人。

開業時に使える資金がある人。

すでに営業経験や業界経験がある人。

当然ですが、こうしたものを持っていれば持っているほど有利です。

逆に、

コネもない。

金もない。

経験もない。

その状態からでも行政書士として食べていけるのか。

ここを知りたい人も結構多いのではないでしょうか。

自分自身も、独立した当初は全部ないと思っていました。

ただ、今になって振り返ると、

「本当にまったくコネがなかったのか」

と言われると、そうでもありません。

親戚が人材紹介の仕事をしていたため、そこから技能実習や特定技能に関わる話が出てくるようになりました。

独立当初は、

「行政書士と何の関係があるのだろう」

と思っていたことが、いろいろ仕事を知っていく中で、

「実は行政書士業務とかなり関係がある」

と分かったわけです。

自分では「何もない」と思っていても、棚卸しをしてみると使える経験や人脈が眠っていることがあります。

これは結構大事なことだと思います。


9.行政書士を極めつつ、行政書士だけにこだわらない

結局、自分が今のところ感じているのは、

行政書士として独立するのであれば、

コネを増やす。

資金力を少しずつ高める。

経験を積む。

行政書士の王道業務を極める。

その一方で、

「行政書士業務だけでなければならない」

とは考えすぎない。

このバランスが大事なのではないか、ということです。

一人で生活する程度であれば、行政書士業務だけでも十分可能だと思います。

しかし、家族を養い、事務所を持ち、従業員を雇い、さらに売上を伸ばしていこうとすれば、かなり経営的な発想が必要になります。

そして行政書士は、仕事そのものがないというより、

「売上をどう安定させるか」

が難しい仕事です。

だからこそ、

行政書士の仕事をしっかりやる。

そこで得た信用や人脈を使って周辺業務にも広げる。

その中から継続的な収入が生まれる仕組みを作る。

そんな形が一つの現実的な答えなのではないかと思っています。

「行政書士は食えるのか」

という問いに、単純に「食える」「食えない」と答えることは難しいです。

ただ、

「行政書士という仕事を軸にして、自分の持っているコネ・金・経験を増やしながら、泥臭く仕事を積み上げていけるか」

と聞かれれば、かなり話は具体的になります。

少なくとも自分は、今はそんなふうに考えています。